Shopifyで複数倉庫の在庫を扱い始めると、最初にぶつかる問いが「ロケーションをいくつ作るべきか」です。倉庫や店舗の数だけ素直に作ればよさそうに見えますが、実際にはそう単純ではありません。多すぎても少なすぎても、日々の運用がじわじわと苦しくなっていきます。
この記事では、マッピングやシートの列構成といった具体的な作り込みの前段階、つまり「そもそもロケーションをいくつに分けるか」という設計判断だけに絞ってお話しします。ここを最初に決めておくと、後のシート設計も同期運用も、驚くほどスムーズになります。
増やしすぎる弊害と、少なすぎる弊害
ロケーションは、在庫を保管し、出荷し、販売する「場所」の単位です。Shopifyは各ロケーションごとに在庫を引当可能数や手持ち数といった状態で管理し、注文をロケーションをまたいで割り当てて出荷します。つまりロケーションを分けるほど、在庫の見え方も注文の動きも細かく追えるようになります。
ただし、その細かさには代償があります。ロケーションを増やしすぎると、棚卸しの対象が増え、シートで管理する列や行も増え、同期のたびに確認する箇所が膨らみます。商品をそのロケーションに在庫設定しておかないと数量を割り当てられないため、新しいロケーションを足すたびに地味な手間も発生します。逆に少なすぎると、本来は別々に管理したい在庫がひとつの数字に混ざってしまい、「どこにいくつあるのか」が分からなくなります。ちょうどよい数は、この両極のあいだにあります。
ロケーションを分ける判断基準
では、どんなときに分けるべきなのでしょうか。物理的な距離だけで決めるのではなく、次の3つの観点を軸にすると、判断がぶれにくくなります。
- 01出荷元 : その在庫から実際に注文を出荷するのか。別々の場所から発送するなら、分けたほうが注文の割り当てが正確になります
- 02在庫責任 : 数字に責任を持つ担当者やチームが違うか。責任の境界が違うなら、ロケーションも分けるのが自然です
- 03棚卸単位 : 別々のタイミング・別々の人で数えるか。同じ日に同じ人がまとめて数えるなら、無理に分ける必要はありません
この3つのうち2つ以上で「違う」が並ぶなら、分けたほうがよいサインです。逆にどれも「同じ」なら、ひとつにまとめて問題ないことがほとんどです。距離ではなく、運用の境界線で考えるのがコツです。なお、Shopifyは各ロケーションごとに引当可能数を別々に持つため、ロケーションを分けると同じ商品でも「東京は在庫あり、大阪は在庫切れ」という状態を正確に表現できます。この使い分けが必要かどうかも、判断のヒントになります。
同じ場所でも分けたほうがよいケース
物理的にはひとつの倉庫でも、分けたほうが運用しやすいことがあります。たとえば、自社販売用の在庫と卸用の在庫を同じ建物に置いていても、引き当てや責任が完全に別なら、ロケーションを2つに分けると数字が混ざりません。検品待ちや不良品の隔離スペースを、販売可能在庫とは別ロケーションにする、という使い方もあります。場所ではなく「在庫の性格」で分ける発想です。
まとめてよいロケーションの見極め方
分ける話の裏返しとして、まとめてよい条件もはっきりさせておきましょう。次のような場合は、わざわざ別ロケーションにするメリットが薄いことが多いです。
- 同じ担当者が、同じタイミングで棚卸しする
- 出荷時にどちらから出すかを区別しておらず、実質ひとつの在庫として扱っている
- 在庫が常に一緒に動き、片方だけを更新する場面がほぼない
- ロケーションを分けても、誰もその区別を見て意思決定していない
特に最後の項目は見落とされがちです。分けた数字を誰も使っていないなら、その分割は管理コストだけを生んでいます。「この区別は、何かの判断に使われているか」を自問すると、不要なロケーションを減らせます。
段階的に増やす前提で初期設計する
ロケーション数は一度決めたら固定、ではありません。事業は変わりますし、倉庫も増減します。だからこそ、最初から「あとで増やす」前提で設計しておくと、変化に強くなります。最小限の数で始め、運用が苦しくなった箇所だけを後から分割していく進め方が現実的です。
完璧なロケーション構成を最初に当てる必要はありません。運用しながら、足りない境界線だけを足していけばよいのです。
シートを在庫マスターにして同期している場合、ロケーションを増やしても運用の骨格は変わりません。Sync Masterは複数ロケーションに対応しているので、シートからロケーションごとの手持ち数をそのまま反映できます。さらにスケジュール同期を使えば、ロケーションが増えても手作業の負担はほとんど変わりません。新しいロケーションを足すときも、本番同期の前に接続テストで列のマッピングを確認すれば、思わぬ取り違えを防ぎながら安心して切り替えられます。
自社のロケーション数を決めるチェックリスト
最後に、手を動かして決めるためのチェックリストを用意しました。候補となる場所や在庫の区分を書き出し、それぞれについて次を確認してみてください。
- そこから実際に注文を出荷するか(出荷元として独立しているか)
- 在庫数に責任を持つ人やチームが他と違うか
- 棚卸しのタイミングや担当が他と分かれているか
- 分けた数字を、価格・補充・販売停止などの判断に使うか
- 近い将来この区分が拡大・分割する見込みがあるか
「はい」が2つ以上なら独立したロケーションに、ほぼ「いいえ」ならまとめる、という目安で十分です。完璧を目指さず、少なめから始めて運用しながら育てていく。それが、過不足のないロケーション設計への一番の近道です。