ロケーションが1つしかないストアでは、シート設計は比較的シンプルです。SKUと数量だけ並べておけば、ほとんどのケースで困りません。ところが、倉庫が2つになったり、店舗が3つになったり、外部の3PLが追加された瞬間、「どうやってシートに表現するか」という問題が一気に難しくなります。
この記事では、マルチロケーション環境で在庫マスターをGoogleシートに置く時の、設計パターンを比較していきます。結論を先に言うと、唯一の正解はありません。ただし、設計を選ぶときに見るべきポイントは決まっています。そこをきちんと押さえれば、後から運用が破綻するリスクを大きく下げられます。
マルチロケーションで起きがちな事故
複数ロケーションでよく聞く失敗パターンを、いくつか挙げてみます。「東京倉庫の数字を、間違って大阪倉庫の在庫に上書きしてしまった」「店舗在庫を倉庫から動かしたのに、シート上は変わっていなくて翌日同期したら逆戻りした」「あるSKUが、なぜか一部ロケーションでしか同期されない」——どれも、シート設計の段階できちんと整理されていれば防げる事故です。
こうした事故の根っこには、たいてい「どのセルが、どの倉庫の数字なのか」という情報がシート構造の中で曖昧になっている、という問題があります。人間の頭の中では分かっていても、同期アプリ側はその「暗黙の了解」を読み取れません。シートの列構造そのものに、ロケーション情報が明示されていることが大切です。
シートの列設計
マルチロケーション在庫をシートで表現する方法は、大きく2つに分かれます。ひとつは「横並びパターン」、もうひとつは「縦並びパターン」です。どちらも実運用で見かける形なので、それぞれの長所と短所を見ていきましょう。
横並びパターン
横並びパターンは、1行が1SKUに対応し、ロケーションを「列」で展開します。たとえばSKUの右側に「東京倉庫」「大阪倉庫」「渋谷店」「梅田店」という4つの列が並び、それぞれに数量が入る形です。Excel時代から多くのストアが使い慣れている形式で、見た目もすっきりしています。
- 長所 : 1SKU=1行で見やすい。総在庫数を行の合計で簡単に計算できる
- 長所 : 棚卸しシートとしてプリントしてもレイアウトが綺麗
- 短所 : ロケーションが増えるたびに列を追加する必要がある
- 短所 : 一部のロケーションだけ別タイミングで更新したい時に扱いにくい
縦並びパターン
縦並びパターンは、1行が「SKU × ロケーション」の組み合わせに対応します。同じSKUでも、ロケーションが3つあれば3行に分かれて記録されます。データベース的な発想に近く、ロケーションが増えても列構造を変える必要がありません。
- 長所 : ロケーションの追加が「行を増やすだけ」で済む
- 長所 : ロケーション単位の部分同期や、フィルタによる絞り込みがやりやすい
- 短所 : 同じSKUの総在庫を見るには合計関数やピボットが必要
- 短所 : 行数がロケーション数の分だけ膨らみ、視認性が下がる
どちらが運用しやすいか
では、横並びと縦並び、どちらが優れているのでしょうか。これは「ストアの段階」によって答えが変わります。
ロケーションが2〜3個、SKU数も数百以内に収まる規模なら、横並びパターンが圧倒的に使いやすいです。シートを開いた瞬間に全体像が把握でき、棚卸しの結果を直接書き込んでいくのにも向いています。社内で「在庫表」という共通認識を作りやすいのも、このパターンの強みです。
一方、ロケーションが5個以上、SKU数も1000を超えるような規模になると、横並びは少しずつ辛くなってきます。列が増えすぎてスクロールが大変ですし、1つのロケーションだけを別タイミングで更新したい時に、関係ない列まで巻き込みやすくなります。この段階では、縦並びパターンへの移行を検討するタイミングです。
迷ったら、まずは横並びで始めて、運用が苦しくなってきたら縦並びに切り替える、という二段階アプローチが現実的です。Sync Masterではどちらのパターンも扱えるよう設計されているので、移行のタイミングは運用側で柔軟に決められます。
同期側でケアできる範囲
シート設計をどんなに丁寧にしても、運用の現場では「ロケーション名が変わった」「新店舗が追加された」「特定の倉庫だけ一時的に止めたい」といった変化が必ず起きます。こうした変化に対して、同期アプリ側でもいくつかの保護機能を用意していると、運用がより安全になります。
- ロケーション名の事前マッピング : シートの表記と、Shopify側の正式名を紐づける
- 対象ロケーションの限定実行 : 「今日は東京倉庫だけ」という部分同期を可能にする
- 存在しないロケーションを無視 : シートに紛れ込んだ未登録のロケーション名でエラーが連鎖しない
Sync Masterでは、こうしたマルチロケーション特有のケースに対する設定オプションを用意しています。最初は気にしなくても動きますが、ロケーションが増えてきた時に「あ、こういう機能があってよかった」と感じてもらえる作りになっています。
次回は、長年Shopifyのストアで定番だった「CSVアップロード運用」を取り上げます。なぜシート同期に切り替えた方が安全なのか、CSV運用の落とし穴を具体的に見ていきます。